第2回:情報を増やせば解決するのか? ~既存成果物への情報追加が別の破綻を生む~
AIが普及した現在でも、開発の出発点は仕様書です。しかし、人間には伝わる仕様でも、AIには正しく伝わらないケースが少なくありません。
AIに伝わらないということは、人間が無意識に補完していた情報が存在する、ということでもあります。
作成者の癖やプロジェクトの性質など、抜けやすい情報も多岐にわたるため、補完をAIに任せるのは難しいと考えるほうがよさそうです。
仕様品質を高めるには?
まずは現在のフォーマットを崩さずに、AIに情報が伝わりやすくする方法を考えてみましょう。
第1回のQAでよく見る「破綻条件」に対策の項目を設けてみました。
発生原因 | AIで起こりやすいこと | 対策案 |
|---|---|---|
情報不足 | 推測で補完する | 目的・背景・前提条件・有効条件を明記 |
仕様の矛盾 | 判断が揺れる | 優先順位・例外条件・仕様の根拠を明記 |
用語の揺れ | 同じ意味として扱う、または別物として扱う | 用語集・定義書を作成 |
暗黙知 | 人間なら分かる前提を理解できない | 業務知識・ルール・判断基準を言語化 |
省略 | 文脈を別の意味で解釈する | 主語・対象・条件・終了条件を省略しない |
情報の関連性不足 | 関係ない情報を根拠として利用する | 情報同士の関連・適用範囲・参照元を明確にする |
仕様品質と作成工数のトレードオフ問題
前項で仕様品質を高めるための対策を列挙しましたが、これらすべてを現場に持ち込むと高確率で別の破綻が発生します。
資料作成工数の肥大化です。
加えて、開発中は仕様自体が固定されたものではありません。変更の都度更新が必要です。更新漏れは矛盾を生みます。
多くの方が、ここまで整理が必要なら、人の手で開発する方がはるかに効率が良かったと思うのではないでしょうか。
必要なのは情報の圧縮
ここでいう情報の圧縮とは、情報を削ることではありません。
重複した説明を減らし、条件や関係性を構造として表現することです。
「仕様品質を高めるには?」の項では、業務を乱すことがないよう、「現在のフォーマットを崩さないこと」を条件としました。
現在の仕様書の多くは、人間が読み、必要に応じて情報を補完することを前提として運用されてきました。
そのため、読み手による暗黙的な情報の補完に依存している部分があります。
私は、それがAIに情報が伝わりにくい原因の一つになっていると考えています。
AIの普及に伴い、仕様書も、人間とAIの双方が扱いやすい成果物へ変化していく必要があると感じています。
もちろん、それだけですべてを解決できるわけではありませんが、
構造化と責務分解を行うことで、重複した説明を減らし、メンテナンス性を向上させることが可能だと考えています。
皆さんも、文字だけで説明された情報より、項目や関係性が整理された情報の方が理解しやすいと感じた経験があるのではないでしょうか。
AIにとっても重要なのは、単に文章量を増やすことではなく、条件や関係性を一定の構造で示すことだと考えています。
そして、情報量が増えるほど構造化の価値が上がるように感じています。
良い仕様書とは何か?
人間が理解できるだけではなく、AIを含めて誰が読んでも、効率的に同じ判断や結論に到達できる仕様書
長々と記載しましたが、この一言に尽きるかと思います。
そのために必要なのは、説明を増やすことではなく、情報の関係性を整理することではないでしょうか。
おわりに
AI時代にまったく新しい品質管理が必要になるのではなく、
これまでQAが積み重ねてきた「曖昧さを減らし、誰もが同じ判断に到達できる情報を作る」という考え方が、
AIとの協働でも価値を持つようになったのではないでしょうか。
AIに合わせて仕事を変えるのではなく、仕様品質という基本に改めて向き合うことが、AIを活かすための出発点になると私は考えています。