第1回:なぜAIの回答はズレるのか? ~既存成果物の曖昧さがAIの出力に現れる~
昨今、生成AIを業務で利用する機会が増えてきました。
コード生成、テストケース作成、文章作成など、多くの場面で活躍し、私自身も日常的に活用しています。
一方で、QAという仕事柄、AIの回答を見ていると「なぜその回答になったのか」が気になることがあります。
その視点で観察したとき、AI性能というよりも「仕様書や文章の品質」が出力結果に表れやすい場面が見えてきました。
「通知する」と書けば伝わる?
例えば、仕様書に次のような一文が書かれていたとします。
チェックを行い、エラーの場合は通知する。
一見すると、特に問題のない文章です。
実際にレビューで「エラーなら通知ですよね?」と確認すると、多くの人が「はい」と答えるでしょう。
しかし、もう一歩踏み込んで「どのように通知しますか?」と聞くと、意外と認識が分かれます。
立場 | 頭の中で想像している「通知」 |
|---|---|
開発者A | 画面にエラーメッセージを表示する |
開発者B | メールを送信する |
運用担当 | 障害通知を送る |
テスター | 上記すべてを確認対象と考える |
顧客 | 利用者へ警告を表示する |
どれも間違いではありません。
しかし、仕様としては十分に定義されていないため、人によって解釈が変わります。
AIは「間違えている」のか?
AIにこのような仕様書を入力した場合も、記載された情報をもとに出力を生成します。
もし「通知」の方法が明確に定義されていなければ、AIは文脈や学習内容をもとに不足した情報を補います。
期待した結果になることもありますが、別の解釈を選ぶこともあります。
この場合、AIの回答だけを誤りと捉えるのではなく、複数の解釈が成立する仕様だったと考える方が自然です。
実は、人間同士の開発でも同じことは日常的に起きています。
AIを利用することで、その曖昧さがこれまで以上に表面化しやすくなった、と見ることもできます。
QAでよく見る「破綻条件」
QAでは、不具合が発生した原因を分析することが多くあります。
AIの利用でも、同じような観点で整理すると、次のような傾向が見えてきます。
発生原因 | AIで起こりやすいこと |
|---|---|
情報不足 | 不足部分を推測で補った回答を生成 |
仕様の矛盾 | どの記述を優先するかによって回答が変わる |
用語の揺れ | 別の単語を同じ意味として扱う、または同じものを意図せず別物として扱う |
暗黙知 | 関係者間で共有されている暗黙の前提を回答に反映できない |
省略 | 文脈を別の意味で解釈する |
情報の関連性不足 | 本来は関係ない情報を根拠として利用する |
どれもAI特有の問題というより、従来から品質向上活動で扱ってきたテーマばかりです。
人間とAI、それぞれの得意分野
AIは大量の知識を活用したり、文章を生成したり、候補を素早く提示したりすることが得意です。
一方で、目的の整理、判断軸の決定、曖昧さの除去は、現時点では人間が担う方が安定しやすい場面が多くあります。
QAでは、認識のズレを減らすために仕様を確認し、整理し、構造化することを日常的に行っています。
この考え方は、人間同士の開発だけでなく、AIを活用する場面でも有効だと感じています。
おわりに
AIは非常に強力なツールですが、「何を求めているか」が明確であるほど、その力を発揮しやすくなります。
だからこそ、AIを使う前に仕様や要件を整理することは、回り道ではなく品質を高めるための準備とも言えます。
人間が目的や構造を整理し、AIが知識や生成を支援する。
この役割分担ができたとき、AIは単なる便利なツールではなく、より頼れるパートナーになってくれるのではないでしょうか。